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東京家庭裁判所 昭和41年(少)19959号 決定 1966年12月14日

少年 T・R(昭二四・六・二〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、高等学校在学中であるが、学業に身が入らず、怠学して遊び歩く間に、昭和四一年一〇月、一一月分の授業料として親からもらつた計九、三〇〇円を使い込み、学校に納入すべき金銭に窮した結果、通行中の女性から金品を強取しようと企て、同年一一月○○日午後七時四五分ごろ、東京都練馬区○○○町○○○番地先の林の中の淋しい路上において、自己の前方を通行中の加○き○子(二三歳)の姿を見かけるや、道路からこぶし大の石を拾つて近づき、その石でいきなり同女の後頭部を二回殴打し、同女を路上に転倒させ、同女の反抗を抑圧したうえ、同女が手に持つていたハンドバックを強くひつぱつてこれを強取しようとしたところ、同女が手を離さず、大声で助けを求めたためその目的を遂げなかつたが、その際、上記暴行により、同女に対し、約二週間の加療を要する左後頭部打撲症及び裂創並びに右膝打撲症の傷害を与えたものである。

(法令の適用)

強盗傷人刑法二四〇条前段

少年は、中学二年時から学業に興味を失つて怠学しがちとなり、高学学校進学後はますますこの傾向がつのり、昭和四一年一一月にはほとんど登校しなくなつた。そして、最近は中学二、三年時から興味を感じはじめた蒸気機関車の写真をとるため、関東一円の機関車々庫をまわり歩くようになつた。このような怠学、徘徊中には、競輪、競馬、パチンコなどにも手を出し、ために授業料を費消して、本件犯行を敢行した。本件は、人通りの少ない林の中の道で、夜間ひとり歩きの女性を背後から襲い、石塊でその後頭部を強打してかなりの傷を負わせ、ハンドバックを強奪しようとしたものであつて、まことに悪質かつ危険な非行である。その性格は、自己中心性が強く、我儘で、共感性に欠け、固執傾向が目立ち、社会適応性が少なく、偏倚が大である。加えて、少年の父は都立高校の校長であり、母もかつて小学教師の経験をもつているものの、保護者のこれまでの監護はおどろくべく不十分なものであつた。保護者は今後の十分な監護を誓い、少年に学業を継続させたい意向であるが、本件が悪質かつ重大な非行であり、その背景には少年の性格偏倚が認められるのみならず、少年の健全な生活への意欲はまことに乏しいことを考えると、少年はこれまで非行がないが、本件については少年院において強力な矯正教育を施こし、その規範意識の覚醒をはかり、社会性を育成して更正への強い意欲を養うことが必要と認められる。

よつて、少年については、その年齢、非行性、知能等からして、これを中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 菊地信男)

参考一 少年調査票〈省略〉

参考二 鑑別結果通知書〈省略〉

編注 抗告審決定(東京高裁 昭四二(く)一〇号 昭四二・一・三〇第一刑事部決定)抗告棄却

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